前記事『シン・ウルトラマン』同様、Twitterでの感想ツイートをベースに、簡単に記事にまとめておくことにします。

映画『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』公式サイト
私はもちろんドラゴンボールのマンガを読み、TVアニメを見てきましたが、劇場でドラゴンボール映画をこれまで見たことがありませんでした。TVで放送してるドラゴンボール映画も部分的に見たものはあっても、頭から最後まで見たものはひとつもありません。
それなのに今回はなぜ?と言えば、TwitterのTLで信用している人たちが『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』を楽しそうに話していたのがひとつ。そこで、ピッコロと孫悟飯が中心になっていることを知って興味をもったのがひとつ。
あとひとつは、最寄りの映画館でチケット買う寸前まで『ソー:ラブ&サンダー』とどちらにするか迷いつつ、窓口のお姉さんになぜか「ドラゴンボール大人1枚」と伝えたから。
飲食店でA、Bどちらのメニューかまだ迷ってるのにあえて店員を呼び、それを契機として何となくで決断する感じと似ている。(ありますよね?)
土壇場のアドリブ決断で見た、初めてのドラゴンボール映画。大変楽しかったです。
なので、いわゆるガチ勢では全くありません。
ドラゴンボール映画の基準が何もないので、『スーパーヒーロー』がそれらと比べてどうだったのかは分かりません。
それでも初めてのドラゴンボール映画は楽しかったという話です。
※ネタバレしまくっています。未見の方はご注意ください。
主役は、ピッコロと悟飯の超人師弟コンビ
未見の方も、この公開後PVを見ると、なんとなく映画の雰囲気は伝わるかと思います。
映画全体をレビューするつもりは最初から無いですが、一応、公式サイトのイントロダクション・ストーリーを引用。
STORY
かつて悟空により壊滅した悪の組織「レッドリボン軍」。
だがその意思は生きていた!
復活した彼らは、新たな人造人間「ガンマ1号&ガンマ2号」を誕生させ、復讐へと動き始める。
不穏な動きをいち早く察知したピッコロはレッドリボン軍基地へと潜入するが、そこでまさかの”最凶兵器”の存在を知るのだった……!
パンをさらわれ基地へとおびき出された悟飯も参戦し、かつてない超絶バトルが始まる!
果たして死闘の行方は!? そして、地球の運命は!?
実際にピッコロと悟飯の超人師弟コンビが主役といってよく、孫悟空とベジータは登場こそすれ地球の危機を救いません。
ピッコロと悟飯だけで最後まできっちり行くのはいいですね。それを見に来たので。
この映画での孫悟空は、ビルスの星にてベジータ、ブロリーと共に修業しています。(『ドラゴンボールZ 神と神』も『ドラゴンボール超 ブロリー』も見てないのでWikipediaを参照した)
私はもう終盤まで、それこそデウス・エクス・マキナ的にあの2人(悟空とベジータ)が来てしまうんじゃないかと、そっちにハラハラしながら見ていましたよ。
瞬間移動があるから、物理的な制約に関係なく、瞬間的に登場できるしね。
テレポート仕掛けのサイヤ人は。
ピッコロが悟飯の娘パンに修行をつけたり、ビーデルに頼まれて幼稚園に迎えにいったり、悟飯一家にとって頼れるおじいちゃんになっており、こうした前半の日常のわちゃわちゃと、レッドリボン軍が登場してからのピッコロ潜入大作戦などがやはりこの映画の楽しみどころ。
ただ、キャラクターが強すぎて本質的な危機に陥らない。
スパイ潜入で仮に見つかったとしても、レッドリボン軍の人間兵士相手に、逃げるにも暴れるにも特に問題はない。
比肩する戦闘力をもつキャラクターで無いとどうにもならない。つまり戦闘をやるしかない。
もちろんドラゴンボールはスパイアクション映画ではないので、潜入はある種のコメディシーンでしかなく、バトルこそが見せ場なので戦闘をやるしかない。
よって中盤からは、戦闘を始めるしかないがゆえに、戦闘が始まってしまう。
ドラゴンボールにおける危機
レッドリボン軍基地で本格的に戦闘が始まったあとは、基本的にバトルが物語を進め、問題を解決する。
この「あとはバトルのお仕事です」となった時にドラゴンボールの映画を見に行ったのなら喜べばいいだけなんだろうけどね。
子供なんかは待ってました!という時間なわけで。戦闘シーンのクオリティも高かったです。
これは、ドラゴンボール映画に見に来ておいて「あとはバトルのお仕事です」に不満があるというわけではなく、ごく単純にここまで強いキャラクター揃いだと、映画のサイズで、ひとつの物語を作るにあたり、色々苦労があるだろうなと思ったのだった。
映画的な危機(物理的でも精神的でも)に陥らせるのが非常に難しいので、この映画でも単純にいえば「ものすごい強いやつが殴ってくる(だから戦闘が発生する)」にはなっている。
それで戦闘になって大ピンチになって逆転して勝つので問題はない。
だって『ドラゴンボール』の映画なんだから。
これに何か物理的な制限をかけようと工夫すると、悟空を子供に戻して瞬間移動もなくした『ドラゴンボールGT』みたいな処理が必要になってしまう。『GT』全部見てないけど、その設定にしたい気持ちはよく分かる。
ただ私はドラゴンボール映画を全く見ていないので知らないだけで、恐らくこれまで映画のためにさまざまな工夫やチャレンジがされてきたのだろうと想像します。
ちなみに「キャラクター強すぎる」問題を極端に推し進めていくと、『ワンパンマン』につながっていく気はする。
サイタマがワンパンチすれば戦闘は終わる。
だからこそ、ワンパンチするまでの他のヒーローたちの奮闘と葛藤こそがドラマの中心となる。
その意味では映画『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は、『ワンパンマン』型のサイタマ以外のヒーローの活躍を見る物語。
最後まで悟空とベジータが現場にやって来ないので、いわゆるワンパンチが放たれることはないですが。
神龍の3つの願いを、何に、どう使うか?
この映画ではちゃんと、ドラゴンボールと願いを叶える神龍も登場します。
ブルマが集めたドラゴンボールを使って、ピッコロが呼び出し、自らのパワーアップに使用。
これにより、ピッコロが最後まで最前線で戦えるようになっています。
ちなみに残り2つの願いは、ブルマのささやかなアンチエイジングに使われますが、20代への若返りとかではなく、ちょっとしたエステ程度のささやかさ(しょうもなさ)なのが興味深かったですね。やるべきことをやってきたブルマとしては、別に年齢を重ねること自体は否定することではないということかな? いいですね。もちろん美容自体には気を遣うけれど。
この映画では、こうして神龍の3つの願いを決戦前に済ませてしまい、地球からビルスの星にいる悟空たちを呼び寄せる手段を事前に無くす処理がされているわけです(でも悟空側が一瞬で移動する手段はあるので、最後までハラハラはするわけです)。
例えば、この神龍を終盤まで温存しておくパターンはどうかな?
決戦中の土壇場で7つのドラゴンボールが揃い、神龍を呼び出して、ピッコロがパワーアップする。
叶える願いが3つもあるので逆に処理が難しいんだけど。
3つ目の願いで悟空を呼び寄せるか、それとも瀕死で絶体絶命の悟飯を全回復させるかの二択で、ピッコロが悟飯選ぶとか。瀕死のサイヤ人の復活=パワーアップイベントでもある。
もしくは逆に、悟飯がお父さんを呼ぶか、ピッコロ助けるかで、ピッコロ選ぶとか。
神龍での悟空召喚をピッコロ達がうっかり気づかず使い果たすことの必要性は理解するけど、ピッコロが主体的に悟空召喚を拒否し、悟飯の可能性にかけて、最後の3つ目の願いをあえて悟飯につぎ込む、とかどうかな?などと劇場で見ながら考えていた。
劇場鑑賞から何日も経過した現在は、ブルマのしょうもない願いで選択肢無くすほうがドラゴンボール世界としてはよいか、と思っている。
これは、単にコメディタッチの緩さの話だけでなく、今回の映画そのものの本質に関係してくるが、これは後述しよう。
何かのために魔貫光殺砲を使えるように
『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』では、大魔王でも神でもなく「ただのピッコロ」と本人が言うシーンが複数回ある。
それは本当にそうで、孫のようなパンの面倒を見るピッコロは、大魔王でもなく神でもない。
とはいえ悟飯一家の心配して、(彼らが生きる)地球の心配して、先回りにしてあれこれ手を打ってと、結局は神様のようなことをしているんだよね。
完全におはようからおやすみまで、暮らしを見つめるピッコロだが、見つめる暮らしは悟飯一家だけでなく、この星全体の暮らしになっている。悟飯一家が住む星だからなのか、神の一部がそうさせるのか、ピッコロ本人にも分からないだろう。
外敵から地球を守るための動機とやり方が、やはりサイヤ人連中とは根本的に違うように感じる。
そのピッコロが、生物学者になった悟飯のやりたい事(研究)を尊重してるのは、忙しいからと幼稚園へのお迎えを頼まれて結局引き受ける事でも分かるけれど、悟飯には研究ばかりでなく、何かあった時の為に鍛えておけよと忠告する。
実際にそのあとすぐにレッドリボン軍によって「世界の危機」が訪れるわけだから、さすがサボらずに魔貫光殺砲を開発した人。的確なアドバイス。
生粋の戦闘民族である悟空やベジータには何かあった時の為に鍛える、という発想自体が恐らくないのでは。
体鍛えて、修行のために戦ってというのは、目的がなくてもやる。有事に備えなくてもやる。それがサイヤ人にとっての普通であり日常という気がする。
まあ悟飯への「何かあった時の為に鍛えておけよ」は、半分は言葉通りでも、もう半分は「仕事は分かるけど、お前もたまにはオレに付き合え」という意味だろうとは思うけど。
ピッコロと悟飯たちによって守られたもの
「世界の危機」といっても、ピッコロが手早く動いて、自ら潜入活動までしたおかげで、レッドリボン軍が本格的に復讐に入る前に、その野望は砕かれる。
よって戦闘の舞台としては、序盤の顔見せを別とすれば、レッドリボン基地しかなく、そこだけで問題は解決される。
だから地球のほとんどの人たちは世界レベルの危機にあったことに気づいてないはず。
神ではないが、ただのピッコロさんが東奔西走して、穏便に皆の日常を守った、ほぼ誰にも気づかれることなく、という構造の映画である。
こういう構造の作品の場合、メインのストーリーラインと並走するサイドのストーリーを展開することがよくある。
ヒーローが非日常の対応に奔走する中で、何とか表側の日常が守られた。
例えば、子供のパンが楽しみにしている遠足に行く、とかね。
子供の日常を守るために、ヒーローが体を張るなんて典型的だ。
しかしピッコロの狂言誘拐により、パンも最前線(レッドリボン軍基地)に来てしまっている。
では、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』での日常サイドとは何か。
それは多分、ビルスの星での、ベジータvs悟空の死力を尽くした大激闘。
ベジータと悟空が何にも考えず精根尽き果てるまで戦い合う時間。
あれこそがピッコロが守ったものであり、メインのvsレッドリボン軍に並行するサイドストーリーなんだろうと思う。
何とも物騒ではあるが、これがサイヤ人の「日常」で、今回の話では悟空を呼ぶ呼ばないという以前に、悟空とベジータはその日常を守られる側のキャラクターになっている。
悟空とベジータが、ビルスの星で修行をしている。2人は腕試しの試合を始める。
だが、神龍の願いはブルマに消費されるし、ウイスへの連絡もアイスクリームのカップごときが邪魔してつながらない。
しょうもないことや、小さな偶然で、悟空が地球へ戻って新しい敵をやっつけてくれるという可能性がなくなっていく。
では、地球と隔絶したまま延々と続く、ベジータvs悟空戦とは一体何なのか。
悟飯とピッコロの映画とはいえ、DB2大スターに出演機会を作るための、単なるサービスなのか。(もちろん、そういう面も多少はあるだろう)
戦いが始まったとき、私は劇場でそう思った。でも違った。
『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は、本来の主人公である孫悟空こそが新たな敵を倒すべきなのに、何かと理由をつけてそれをしない映画、ではない。
ピッコロと悟飯は、多くの人に気づかれることなく地球の平和を守ったのと同時に、悟空やベジータの「日常」をも守った。
悟空vsベジータは、単なるサービスではなく、その尊い「日常」の象徴になっていると私は見る。
誰のためでも、何かあった時のためでもなく、ただ自分自身がやりたいからする、ハナクソほじる力も残っちゃいねえほどのバトル。
満足気に倒れる2人は、映画の最後まで、地球でどんなピンチがあったのかを知らない。
シビアすぎない、好ましい緩さが許される映画世界
そのために、ピッコロが、幼稚園の迎えにいったり、潜入捜査したり、仙豆を回収したり、神龍呼び出したり、悟飯復帰のお膳立てしたりと、八面六臂の大活躍をするわけです。
神じゃないと言いつつ、地球(日常)の守護者になってしまってるピッコロを楽しむ映画であることは間違いないでしょう。
逆に言えば、Z戦士……とは言わないか。地球が誇る超戦士全集結でなくても、ピッコロとブランクのある悟飯で何とかなった事例ではあるので、そのぐらいのスケールの話ではあるし、ピッコロの早め早めの行動で未然に防いで地球規模の危機にもなってない。
だから仮にベジータや悟空がいれば、もっと早く事態が収まった可能性はあるだろう。
強いカード2枚を抜きにして、それでも勝てたわけだから、事実としてはね。
でもだからこそ、神龍をブルマのしょうもない願いで消費したり、悟飯復帰の為の狂言誘拐といえども、パンを戦闘現場に連れ出したり、フュージョン大失敗だったり、それぐらいの緩さ(それこそ愛嬌と言ってもいいと思う)を許容する作品世界にはなっている気がする。
つまり、地球人類が全員殺されるかどうかのようなシビアな話ではない。
ネットでよくいじられているが、全員死んでもドラゴンボールで全員生き返らせればいいなど、あんなことを悟空に言わせなくてもいい世界ということでもある。
ただ本来の鳥山明の世界はこれぐらいの、ギャルパン(ギャルのパンティおくれ)や、まつげエクステ2mmは全然OKのはずなので、そういう意味では正しく、鳥山明作のドラゴンボール映画だったと思います。
この緩さと、悟空抜きでも問題解決できるスケールとバトルを、物足りないと思う人もいるかも知れませんが、私はむしろこういうものが見たかった、と思えました。なので初ドラゴンボール映画、楽しめました。そう思える方、おすすめします。
ということで、悟空とベジータがイチャイチャする空間を、ピッコロが守りつつ、その息子とイチャイチャする映画こと『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』大ヒット上映中!ぜってえ見てくれよな!(もう終わっちゃう……見れる人は早く見て!)
公式サイト 『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』劇場リスト
https://toei-screeninginfo.azurewebsites.net/theaterlist/02851
『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』については冒頭に書いたように、TwitterのTLで楽しそうなツイートを読んだのがそもそも見るきっかけでしたし、鑑賞後にも私の感想ツイートにリアクションしてくださった方たち無しには、色々と思索を広げることができなかったと思います。とても感謝しております。
持つべきものは、おはようからおやすみまで信頼できるTLですね。
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