特車二課の「パトレイバー」に乗れない男子のひとり。

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(2012/09/25)
ゆうきまさみ

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まずはWikipediaでの登場人物紹介を引用してみましょうか。

警視庁警備部特科車両二課第二小隊員。後方支援担当。階級は巡査。沖縄県石垣島出身。通称「ひろみちゃん」。身長2メートルを超す強面の巨漢で、レイバー操縦技能は持つが、イングラムのコクピットの狭さから搭乗できず、後方支援に回る。なお警察に入った理由は、実家が漁師であるが、本人はとても船に弱い体質であるからである。その体躯ゆえに重火器を任される場合が多い。しかし、その外見に似合わず器用で、世話好きな心優しい男である。また、涙もろく恐がりであり、争い事を好まず、進士と並ぶ第二小隊の良識人である。
Wikipedia:「山崎ひろみ」より


沖縄出身なんですね(知らなかった)。
それ以外はよく知っている、第二小隊の仲間、「ひろみちゃん」です。メインキャストのひとりです。

映像で『パトレイバー』に関わった押井守は、山崎ひろみのことをインタビューでこう語っていました。
「レイアウトのために存在するキャラクター」であると。

映像の中での、ひろみちゃんの貢献


押井 第二小隊の6人は描くしかないから、やったけどね。あれは、本当は5人組ですからね。実は、5人組というメカものの基本構造は師匠(鳥海永行氏)が作ったものだからね。

―ああ、「科学忍者隊ガッチャマン」ですね。石ノ森章太郎さんの「レインボー戦隊ロビン」は7人でしたかね。いずれにしても、ヒーローとヒロイン、準ヒーローと子供か小男、そして大男という構成ですね。

押井 レイアウトの都合上そうなるだけであってね、凸凹の身長の男と綺麗なお姉ちゃん。その枠組み自体、人間ドラマとして構成させるのは不可能でしょう?実に足手まとい。第二小隊も基本的にこの構造だったでしょう。

押井守監督 インタビュー(2)より


この話でいくと山崎は、『科学忍者隊ガッチャマン』でいえば、みみずくの竜であるということですね。
巨体で、気は優しくて、力持ち。明るい笑顔が今日もゆく。

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映像演出をする押井監督からすると、画面レイアウト上のメリハリのためのキャラクターであり、別のインタビューでも彼に対して「壁」という言い方をしていたと思います。
つまりは「チームもの」でのキャラクター類型のひとつであり、画面レイアウトでの活躍が大きいと。

全国3500万人のひろみファンには申し訳ないですが、個人的には実際にそうだろうな、とは思います。
類型的なキャラクターが悪いと思いませんし、山崎ひろみというキャラクターをキライというわけでも、もちろんありませんけどね。

レイバーに乗れない人は何をしたらよいのか問題


『機動警察パトレイバー』において、山崎ひろみは、レイバーに乗れません。
技術的な問題ではなく、巨体ゆえにレイバーのコクピットに搭乗できないからです。
Wikipediaによると、船にも弱い体質と書いてあるので、乗れたとしても三半規管的な意味でやはりダメかも知れません。

『パトレイバー』はロボット物なので、国家権力、警察としての「力」はレイバーが執行します。
巨体で重火器も取り扱えるという、個人の戦闘力としては作品最強レベルのひとりである山崎ですが、レイバーに乗れない彼は、作品の構造上バックアップに回るほかありません。

かくして、彼にはバックアップキャラクターとして、ふさわしい内面が与えられていきます。
  • 気配り上手
  • 涙もろく、怖がり
  • 基本的に争いを好まない
  • 世話好き
  • 動植物が好き
  • 料理が得意
  • 下戸(おちょこ1杯で酔っぱらう)

箇条書きにすると、どこのヒロイン?と思うような特徴の数々。
2mの巨体とのギャップによる面白さを作るためでもあったでしょうが、きわめて女性的ですね。
さらにいうならば作品中、もっとも母性を前面に出したキャラクターと言ってもいいかも知れない。

つまり、それが最もバックアップ(後方支援)にふさわしいキャラクターであったのでしょう。

しかしながらこれは男性が戦闘をし、女性が後方にいるべき、という生まれ持った性別での単純な役割分担の話ではありません。性別に関係なく、職務に応じて異なる、人間的な性格や資質によるものなのだろうと思います。

ですからこのキャラクター性は、2mの巨体と怪力でありながら、バックアップ担当にならざるを得なかった山崎ひろみに与えられた「RIGHT STUFF(正しい資質)」なのでしょう。

自分の中にある「暴力」とどう付き合うか


野明も「ひろみちゃん」と呼んで、親しくしているようですが、恐らく彼に男性を感じることはなく、性別を意識する必要のない友人としての関係性ではないかと思われます。

その「ひろみちゃん」について、psb1981さんはこう書かれています。

レイバーに乗って戦うには彼は優しいのである。いや、本当は優しいというよりも怖がっているのだと思う。何を怖がっているのかと言えば、自分自身が男性であること、である。つまり彼はその恵まれたフィジカル(男性性)ゆえに、(正義であろうとなかろうと)暴力の恐ろしさや、それを行使することの責任を知りすぎているのである。

山崎ひろみ(カテジナ日記)
http://tentative-psb1981.hatenablog.com/entry/2015/04/04/210154


「ひろみちゃん」は、自分の恵まれた体躯による暴力性に気付いているだろう。
その肉体で、スタローンやシュワルツェネッガーのような、アクションヒーローをこなすことも可能であり、事実、常人では扱えないような重火器で活躍することもある。

しかし彼自身の性格は争いを好まず、暴力性は基本的に封印されている。
縁の下の力持ち、バックアップの仕事も恐らく厭うことはない。(太田であれば3日で辞めるだろう)

つまり「ひろみちゃん」が持つ暴力性は、彼が持つ女性的、母性的な精神性によって制御されている。
これは、巨大な暴力であるレイバーを、少女であり、イングラムの母である泉野明が制御する構図と似ていると言えなくもない。

そう、いわば「ひろみちゃん」は、特車二課第二小隊のレイバー三号機だったんだよ!

mmr

レイバーは、ひろみちゃん。そしてパイロットは、女性的なひろみちゃん。

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『機動警察パトレイバー』において、巨大な暴力装置であるレイバーに対して、どのようなスタンスを取るか、というのは作品を考える上での面白いポイントのひとつです。

この作品では、男性がレイバーに乗って、その力を行使するということが少なく、山崎ひろみはそのうちのひとりです。

彼以外に、従来のロボット物主人公のように男性的な男性が乗るパターンは太田が、父の作ったロボットに乗らないパターンを遊馬が、天才パイロット少年が乗るパターンはバドが、それぞれ担当しています。

それは、それぞれのキャラクターに関する項で、詳しく考えることにいたしましょう。

次の記事へ、<つづく>




シリーズ記事『機動警察パトレイバー』


第1回:1988年に生まれた、1998年の物語<シリーズ『機動警察パトレイバー』:時代背景>
第2回:コワモテの優しい巨人<シリーズ『機動警察パトレイバー』:山崎ひろみ>
第3回:MEGANE AND POLICE(メガネ&ポリス)<シリーズ『機動警察パトレイバー』:進士幹泰>
第4回:悪・即・弾 その男、凶暴につき<シリーズ『機動警察パトレイバー』:太田功>
第5回:第二小隊の学級委員は決して犯罪者に屈したりはしない!<シリーズ『機動警察パトレイバー』:熊耳 武緒>


同時にこの企画を始めた(そして私が置いていかれた)psb1981さんのパトレイバー記事はこちら。

カテジナ日記 カテゴリ:パトレイバー

発端となったTwitterでの『パトレイバー』話のまとめはこちら。

『機動警察パトレイバー』を中心とした、ゆうきまさみに関するはてしない物語(ツイート群)
http://togetter.com/li/801061
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