みんな大好き『西遊記』。
日本には数多くの『西遊記』ベースのお話がありますが、今回は元祖『西遊記』(スーパーモンキーでない方)のお話。
まずは、三蔵法師のお供の一人、沙悟浄の姿を思い浮かべていただきたい。特に首のあたり。
―――思い出せない?そんなことない。少しとびらをひらくだけですバイストンウェル。
では、思い出せない方のために、なつかしい動画のとびらをひらいてみましょうか。
■ドラマ「西遊記」OP&ED
※敏行がサムネイルで目立ちすぎですが、シローに注目。
もう一度エンドレス(KIX・S)
見ての通り、沙悟浄は首からドクロのネックレスのようなものをかけていますね。
超クール。さすが天界生まれ、流沙河育ち。悪そうな妖怪は大体友達。
このドクロ。全部で9つあるのですが、全て三蔵法師(前世)の頭がい骨です。
三蔵は何度も転生して天竺を目指しますが、そのたびに沙悟浄に食われてしまいます。
9回食われて、9つのドクロになり、それがステキな首飾りになりました。
つまり私たちが『西遊記』で見ている、おなじみの三蔵法師は、実は「10人目の三蔵法師」というわけです。六番目の小夜子どころの話ではありません。
私は子供の頃からこの沙悟浄のドクロ話がとても好きでした。
三蔵は同じ面で9機死んで、さらにコンティニューしているわけで、非常にゲーム的でもありますよね。
小説で言えば桜坂洋『All You Need Is Kill』でもあり、『涼宮ハルヒの憂鬱』で言えば「エンドレスナイン」といってもいいかもしれない。
沙悟浄問題を解決しない限り続く無限ループ(時間軸が巻き戻るわけではないけどね)。
ポイントは、救われなくてかわいそうなのが、三蔵1人だけではないこと。
『西遊記』の場合、これに関わる全員が救われない。三蔵を食べる沙悟浄もそれに含まれる。
そもそも『西遊記』のおなじみのメンバーは全員が罪人で、贖罪とその果てにある救済を必要とする。
沙悟浄は9回も高僧を食べて、シューティングゲームでいえば2面ボスぐらいの役割を充分に果たしているが、それを続けている限り悟浄は救われない。
当然、天竺に辿りつかなくては食われっぱなしの三蔵も救われない。
そしてループを断ち切る力を持つ、ひと飛び十万八千里の齊天大聖も地上の人間に尽くさないと救われない。
「じゃあなんで食べるんだよ。9回も食べるなよ」と私も思いますけど、おいしそうな高僧が目の前にいて、それを食べない人がいて?(ララァ)
ともかく沙悟浄に9回食われたあげく、10回目でおなじみのパーティ(SOS団)を結成して、ついに突破に成功するわけです。
その10回目で、そのまま天竺まで行けたことになるので、RPGでいうと、レベル15ぐらいの時の中ボスがいちばん強敵だった。あとはラスボスまでそんなに苦労しなかったよ、という感じでしょうか。
ループ突破のカギはやっぱりスーパーモンキー孫悟空の弟子入りかも知れません。
そういえば中国では、序盤の天界で大暴れの悟空が好まれ、日本では弟子入り後の三蔵を守る悟空が好まれる、という話を聞いたことがあります。
権力なにするものぞ、体制に対してナチュラルに逆らう中国の気質や、ひたすら主人に仕える忠義を大事にする日本人の気質の違いが現れている気がして面白いですね。
SOS団(三蔵を「おっしょ様」と慕う団)、天竺へ
さて少なくとも9回は転生した三蔵ですが、沙悟浄に食われるだけでなく、それ以前に足をすべらせて崖から落ちた三蔵もいれば、五行山を通らないルートで虎に食われた三蔵もいたんだろうなと想像するとさらに楽しいことになるので、考えてみることにしました(楽しいことにだけ貪欲)。
【三蔵法師の憂鬱】エンドレス・ワン・オー・エイト(108)
001回目:唐の太宗に天竺行きスポンサー要請に行くが、無礼を働き、斬られる。
002回目:軽いデジャヴを感じながら太宗に斬られ、何となく自分の運命を悟る。
003回目:自殺してみる。
007回目:太宗の性格や好みはつかんだが、蓮舫に仕分けられてしまう(絶望して自殺)。
010回目:ついに天竺へ向けて出発、すること1時間。長安を出る前にチンピラに刺される。
013回目:長安脱出。しかし、国境の壁が乗り越えられない。
018回目:五行山到着。暴れ猿がいると聞いて、それを避けて進むがトラに食われる。
021回目:龍神池で溺れ死ぬ。
025回目:龍神池のパターンは大体覚えたと思ったら、今回パターン違ってる!
034回目:流沙河到達1回目。悟空なし。食われる。
047回目:流沙河到達5回目。食われる。ここがクリアーできる気がしない。完全に詰まった。
051回目:今回武芸を学んでみたが、人間程度の武芸では妖怪相手には無駄だと悟る。
053回目:悟空を味方につける必要があると感じるが、封印の解き方が分からない。
055回目:体を鍛えるより、むしろ容姿や話芸に気を使った方が得が多いと気づく。
062回目:悟空の弟子入りに成功。雲に乗って一瞬で天竺へ。「反則」とお釈迦様に転生させられる。
063回目:流沙河到達10回目。やっと食われず突破。いけるいけるぞ!
070回目:妊娠して子を産む。乳を吸う(出ないが)赤子を見ながら、これもいいかもと思い始める。
072回目:悪魔の館で、ストロング金剛につかまる。
077回目:悟空を破門する。…いつまで待っても戻ってきてくれない(正直ちょっと引く)。
088回目:ジブラルタル海峡で、クリティカルヒットを受け、落下。
092回目:火炎山でこんがりロースト。
097回目:人喰い穴で大念寺誠につかまる。ここに来て運かよ、といいつつ死ぬ。
101回目:全然天竺にたどり着けないので、いっそ射精しまくったろかなとか考え出す。
107回目:よくぞ生き残った我が精鋭達は、最終カート戦まで辿りつくが敗北。惜しい!
108回目:ついに天竺にたどりつく。
こうして死後コンティニューされるたびに色々試し、学び、悟り、しゃかりきコロンブスしたあげく、若くして徳の高い立派な三蔵法師ができあがるというのは、なかなか面白いかもしれない。
これだけ人生経験があっては、不屈の意志と、弟子達に愛されるカリスマがあっても不思議ではない。あと、三蔵はいつも運がいいな、と思うのだけど、運の悪い三蔵は全員もう死んでいるのだな。
天竺(ゴール)にて
三蔵「お釈迦様。三蔵、まいりました」
お釈迦様「よくぞたどりつきました。」
三蔵「ありがとうございます。あの…他の仏の皆様は、なぜうなだれているんでしょうか」
お釈迦様「お前が今回も失敗する方に、全財産を賭けた愚かなものたちです」
三蔵「え?それは?あの、え?」
お釈迦様「気にしなくてよい。私は信じておりましたよ(にっこりほほえむ)」
108回は冗談としても、三蔵の9回ループはちょっと見てみたいですよね。
ループを断ち切るためいろいろ工夫する三蔵や、毎回、三蔵を食べつつ、これでは救われないと嘆き悲しむ悟浄も見たい。ループを断ち切る力を持っているのに、さまざまな偶然で封印を解かれずイライラする悟空も見たい。
それは流沙河クライマックスの『西遊記』。
緊箍呪ギアス 反逆の孫悟空
最近ずっと、少年マンガでの「正義」や「暴力の正当性」みたいなことを自分なりにメモしようと思っているのだけど、取り止めがなくてなかなかまとまらない。もうまとめるのは放棄した。メモだけにします。
『西遊記』は、三蔵と悟空の、「契約(弟子入り)」→「破門」→「再契約」もあるし、全員が罪人だし、ロードムービーだし、ジャンプマンガの先祖みたいなものですから、参考になる面白い部分もたくさんあります。
三蔵をイデオロギー型主人公、悟空をアクション(暴力)型主人公としたバディものとして考えても楽しいし、三蔵を白主人公、悟空を黒主人公として考えるのも楽しい。
悟空「結果が大事なら雲に乗って一瞬で天竺に行くべきだ。」
三蔵「正しいプロセスを踏まない結果に意味はない」…とかね。
例えば『NARUTO』は三蔵がいないんですよね。
このマンガは10年目にして世界(システム)と戦う構図を出してしまったのに、それと対峙すべきイデオロギー型主人公がいないので、本来アクション型主人公のままにしておくべきナルトに全部任せようとして無理が出ているなあ、というのが私の感想です。
もちろんやり方は色々あるので、同じパターンを使う必要はないし、正解は無い。ただ、何らかの構造を持ち出すのであれば、それを処理しなければいけないのは確かなので、あくまで理屈だけで考えるならば処理が楽になるよね、というだけの話ですけどね(『NARUTO』はあくまで例えです)。
さて今年中に、少年マンガメモが天竺にたどりつければいいのだけれど、道に迷ってばかりで遥かに遠い。どうしたら行けるのだろう。教えて欲しい。
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子供の頃、読んでいたのはこれ。恐らく大人が今読んでも充分に面白い。
SOS団結成後「金角銀角と牛魔王倒したらもう天竺」が西遊記だと思っている「意外と近いよね天竺」という人におすすめ。
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高校の頃、国語のテスト問題で『悟浄歎異』と出会い、問題文の前後を読みたくて買った。そんなことしたのはこの1回だけ。恐らく死ぬまで読み返す一冊。押井守『イノセンス』を見たときに『悟浄出世』を連想したりもした。
中島敦を一冊だけ欲しいといわれたら、ワンコイン(500円)で買えて満足感たっぷりのこれをおすすめしたい。
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好きこそものの上手なれ …って言うけど
or God !


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Re: 好きこそものの上手なれ …って言うけど
この記事は、あんまり上手くいかなかったんですけど、西遊記好きの方とか、ごく一部の方にご好評いただいたようなので、満足です。喜ぶ人がいるならニッチで結構。