BGMを口ずさみながら、両腕を上にあげて長袖の服に腕を通しつつジャンプし、そこから両腕をぱっくり左右に割りながら、砂場にすべりながら着地するという「ザブングル着替え」で遊んでいた幼少時から30年か……。
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kaito2198さん(TOMINOSUKI / 富野愛好病)が、当時出版された『ザブングル記録全集』から、富野由悠季監督が寄せた寄稿文「ザブングルの塊」を紹介してくれています。
『戦闘メカ ザブングル』誕生秘話(上)
http://kaito2198.blog43.fc2.com/blog-entry-1099.html
まず、ロボットはすでに上っている二十数メートルのものを使わなければならない。それでクローバーの作業が始まっているというからだ。
それらの絶対条件のなかで、以前に作られた設定をかえてゆくのが、その夜の僕の仕事だった。それで、まず第一に、キャラクターの名前は、前の設定書の名前を作ることに決める。自分の好みをいってしまうと名前をつくるのも二、三時間かかってしまうからである。
そして、あとの全ては再考。そのストーリーの骨格の設定――つまり、どういった設定トリックを使うか、ということ。
この一点さえ決めれば翌日からストーリー作りに入れるということになる。これもスケジュール的に自分の好みを全て捨てて作らなければならないと覚悟をきめて、全て、二十数メートルのロボットの必要な世界の決定…とさぐってゆくわけだ。(富野監督の寄稿文より)
私は記録全集の類は全く持っていないため、読むのは初めて。ありがたく拝見しましたが、とにかく面白い。
富野監督が『ザブングル』の基本設定を一気に組み上げたときのお話。作品の舞台となった星の名前をとって「惑星ゾラ誕生物語」といってもいいかも知れません。
途中参加の富野監督が『ザブングル』の企画をまとめるため、用意された資料を前にしたとき、2つの大前提が存在していました。
(1)二十数メートルのロボット
(2)西部劇風世界
この2つをスタートラインにして、はたしてどんなロボットアニメの作品世界を組み上げるのか。
『ザブングル』を知ってる人はもちろん、知らない人にこそ、ぜひちょっと考えてみてほしい。
西部劇風世界+ロボット(20メートル)のお題で、どんなロボットアニメにするのがいいでしょうか?さて。
こうした「物語の基本構造づくり」の過程が、私はとても好きで、富野アニメが好きな理由のひとつがこうした「物語世界づくり」の魅力にあると言ってもいいと思います。
kaito2198さんも、記事内でこう書いていらっしゃいます。
富野監督の作品作りはいつも世界観から入っている。しかもその世界観はたとえ絵空事であっても、極めてロジックな理路でシミュレートされている(単に設定されているのではない)。
これは全くその通り。すべての要素は単に設定ではなく、「ロボットアニメ」というバカげたフォーマットを支え、物語を豊かにするために明確な役割を持って導入されているのです。
というわけで今回は、『ザブングル記録全集』の寄稿文を手がかりに、『戦闘メカ ザブングル』の舞台である「惑星ゾラ」が生まれるまでを改めて追ってみたいと思います。
【惑星ゾラ開発史1】ロボットが存在できるための地ならし
では【惑星ゾラ開発史】と題しまして、過程をいくつかのブロックに分け、物語世界が整えられていくさまを追ってみましょう。
先ほど書いたように、『ザブングル』のスポンサーであるクローバーの主導によって「二十数メートルのロボット」のデザインが進んでいましたから、富野監督はロボットの存在理由を考えなければいけません。
彼ら(ロボット)が存在できて、戦いあうことが自然な世界を。
ただし世界を考える際には、もうひとつの前提条件「西部劇風世界」も忘れてはいけません。
この最初の課題を、富野監督はどう処理したのでしょうか?
寄稿文から、この課題の「解決編」箇所を引用してみましょう。
ロボット物をらしく創る要素は、ロボットを動かしてもいい世界観をつくることであるという一点に絞り、三時間ほどその事を考えていった。が、先にある企画書を読むだけでヒントはなかった。
で、いい加減、危機感に悩まされ、風呂に入ってみる、体操をしてみるとやるのだが十二時になっても、ガソリンで動くロボットにする条件しか思いつかなかった。
アイデアというものはこんなものだ。矢立は西部劇にしろといっていたな、という事を思い起し、場合によってはもう一晩泊まってやろうか、と考えていた時に、西部劇なら荒野、荒野なら地球全てを荒野にしてしまえと思いついた。
ならば、なぜ地球全てが荒野になったのかを考えてみたが、これはSF的にも不可能らしい……。が、いい、とにかく、一度、全地球的な破壊があって、再生すべく戻った人類がいかに生きてゆくか、生きつづけてゆくのかの活劇にしようと思いついたのだ。
「ロボット物をらしく創る要素は、ロボットを動かしてもいい世界観をつくることである」
というのは富野監督らしい名言といえますが、この時代のロボットアニメとは玩具メーカーのコマーシャルフィルムだったわけですから、順番のあとさきとしては当然ともいえます。つまり、ロボットが先、世界が後、というビジネス上の真理です。
相田みつを的にいえば「ザブングルはねぇ 惑星ゾラのために この世に生まれてきたのでないんだよ ザブングルがさき 惑星ゾラはあと」。
この「解決編」テキストだけで十分ではあるのですが、より分かりやすくするために、惑星ゾラ開発の要素を「世界観」「キャラクター」「ロボット」という3つに分け、それぞれがどう作用しているかが見える図にしてみましたのでご覧下さい。

細かい経緯をよく知らないのですが、ザブングル(ウォーカーマシン)の「ガソリンで動くロボット」というのは、ハンドル操作=自動車的な連想なのかも知れないし、当時からあったであろう「原油枯渇するする詐欺」を踏まえての、地球崩壊→乾燥した荒野→原油が再び利用されるという連想なのかも知れません。
はっきりいえばロボットアニメは絵空事なので、架空のスーパー動力炉やスーパー燃料でもいいし、操作系もレバーでも脳波でもいいのです。
でも「ガソリンとハンドルで動くロボット」というのは、私達の文明との延長上にある、というつながりや親しみを感じさせる。
惑星ゾラという未知の惑星を舞台に始まった物語は、物語が進むにつれ、これがもともと地球と呼ばれる星であったと分かっていきますが、ウォーカーマシンは設定時から地球生まれ地球育ちの履歴書をもつロボットだったといえるかも知れません。
とにかく物語の大枠は決まりました。
崩壊後のすべてが西部劇の荒野となった地球で、それでも生き残った人類が、ガソリンとハンドルで動くロボットを使って、いかに生きてゆくか、生きつづけてゆくのかという活劇です。
【惑星ゾラ開発史2】ロボットはどこから来て、なにをする?
大枠は決まりましたが、物語世界内でのロボットの位置づけ。主人公たちとロボットの関係性。物語を駆動するベクトル。未解決の問題はまだまだあります。
つまり、ロボットはどこから来て、何をするのか?そして物語の大きな流れは?
それが決定されるこのブロックが、ロボットアニメの世界づくりとして最も重要なポイントになります。
まずは先ほどと同じように、まず富野監督の「解決編」をご覧いただきましょう。
もし、地球上が破壊の後ならば、かなりの異変の後であったろう。
以前の人類がすなおに生きられまい。新しい人類の再生の実験の自大だろう、等々。
なら、高度なエネルギー・システムは使うまい。
にもかかわらず、二本脚メカを稼動させるコンピューター・システムなどはシビリアンに与えよう。
しかし、それらのメカの基礎技術も学力も与えておかなければ、シビリアンはただおしきせのものを使うしかないだろう。たとえていえば、電気に弱い人にラジオの修理をしてみな、というようなレベルの人だけの世界。
なぜならば、新しい地球の環境に耐性をつけさせてゆくためには、ひらすらタフな人間をチョイスしなければならない。だから、弱肉強食をさせて、生き残り戦をシビリアン同士にやらせよう。
……なるほど。これを図にしてみると、こんな感じでしょうか。

テーマ(大枠)から、キャラクター(主人公たち)は「文明崩壊後の地球でたくましく再生していく人類」ということが導きだされましたが、問題は、彼ら自身が二足歩行ロボットを生み出し、扱えるようなテクノロジーを持っていないだろう、ということです。
ロボットのために生まれる世界とキャラクターがそれでは困ります。
ロボットの出自を主人公以外の存在に求めましょう。
『ザブングル』の場合は、崩壊前のテクノロジーを保持している人類「イノセント」を設定しました。
このようにロボットの由来を主人公たちの外部に求めるというパターンは、富野作品でいくつかあります。
例えば『伝説巨神イデオン』のイデオンは、第6文明人が建造し地球人が遺跡の形で発見します。
地球人にとっては完全なオーバーテクノロジーの兵器で、メカ的なメンテナンスはできても、制御はできない。
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また『∀ガンダム』でも、∀ガンダムがそうですね。驚異的な性能を持つこのモビルスーツは、神像「ホワイトドール」として眠っているところを発見されました。
イデオンに比べると地球人のテクノロジーレベルが未発達のため、自己修復機能をもつナノスキン装甲を持たせることで、メンテナンスの問題を解決しています。
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『ザブングル』のウォーカーマシンは、イデオンや∀ガンダムのような超兵器ではありませんので、マシンを操り、メンテナンスする程度の問題なら自分たちで解決できます。
ただ、マシンを生み出せるほどのテクノロジーはありません。イノセントにマシンを与えてもらう必要があります。
しかしそうなると、なぜイノセントはウォーカーマシンをわざわざ主人公たちに渡さなければならないのか?という次の疑問も発生しますね。なぜロボットをプレゼントするのか?親切なの?バカなの?
そこで生まれたのが、支配階級イノセントによる人類再生計画。
イノセントは、厳しい環境となった地球で生き抜く強い人類を育てるために、再生人類シビリアンたちに弱肉強食の生存サバイバルをさせながら、社会性の進歩を観察している、ということにしました。
すなわちサバイバルダンス。そして再生実験としてのトライアルダンス。
ケンカばかりだよ、あの頃も、今だって……そう、イノセントが後ろで手をひく限り、終わらない、続いていくサバイバルダンス!
ウォーカーマシンは、そのためにシビリアンに与えられた土木作業機械であったり、移動手段であったり、争うための兵器ということになりました。
シビリアン達は、ウォーカーマシンを駆って、世界へ拡散し、街の建築や採掘などを行い、そして戦います。
人類再生計画で、ロボットが与えられる理由と争いごとが絶えない理由が同時に解決できました。
しかし、まだ弱い。イノセントからウォーカーマシンを与えられたからといって、なぜシビリアンはロボットバトルをしなければいけないのか。ロボットアニメだから当然なのですが、物語上の必然がありません。
【惑星ゾラ開発史3】ブルーストーン経済によるシビリアンコントロール
イノセントの目論見通りに、優れた強いシビリアンだけが生き残っていく生存サバイバルにするには、シビリアンたちを動かすためのルールやシステムの整備が必要になりそうです。
ここからは寄稿文の内容を越えて、その後の話。惑星ゾラの開発を完了するためには残る課題を解決する必要がありますので、もう少し考えてみましょう。
シビリアンを弱肉強食生存サバイバルに巻き込んで、ロボットでの戦乱を発生させるにはどうすればいいのか?
そのために『ザブングル』で導入されたルール・システムは2つあります。図をご覧いただきましょう。

(1)三日限りの掟
「泥棒、殺人、あらゆる犯罪は三日逃げ切れば全て免罪」――それが惑星ゾラの不文律。
あらゆる犯罪が三日で免罪されるわけですから、これは当然、弱肉強食サバイバルを助長します。
イノセントが与えたこのルールによって、シビリアンは自己責任でたくましく生きることを余儀なくされました。
さらに三日限りの掟は単なるルールにとどまらず、シビリアンの行動原理をも規定しています。
刹那的な目の前がよければよし、という生き方が中心で、長期的な生き方や考え方がどうしてもできません。恋愛観も影響を受けているようで熱しやすく冷めやすい。
明日死ぬかもしれない、という世界での単純化(最適化)された生き方です。
「三日限りの掟」は、荒れた世界観とゲームルールの説明に加えて、そこに生きる人々の行動原理をも説明した、きわめてすばらしいキーワードです。たった1つのシンプルルールで、作品世界とそこに生きる人々の内面の両方を表現しています。
「三日限りの掟」の掟に関しては、このルールのことだけを書いた記事がありますので、詳細はそちらをご覧ください。
惑星ゾラで生きるための、たったひとつのルール。<"異世界もの"としての戦闘メカ ザブングル>
(2)ブルーストーン経済
もうひとつ、イノセントが与えたのが「ブルーストーン経済」というシステムです。
ブルーストーンと呼ばれる青い石を採掘し、イノセントの所へ持って行くと、さまざまな物資と交換してもらえます。生活物資をはじめ、ウォーカーマシンやランドシップ(浮上式航行艦)も。
シビリアン内で流通している貨幣もあるようですが、文明レベルが上のイノセントの製品を手に入れるにはブルーストーンを手に入れるほかなく、当然ながらブルーストーンは、シビリアンにとって代わりのない貴重品となっています。
「ブルーストーン経済」に主に関わるのは、以下の3つの職業です。
【ロックマン】
ブルーストーンを採掘する鉱夫たち。技術という手段で、ブルーストーンを得る人々。
主人公ジロン・アモスの父は優れたロックマンだった。体全体が青く、左手が武器になっている。
【交易商人(運び屋)】
ランドシップで各地を移動する商人。ロックマンからブルーストーンを買い上げる。
交易という手段で、ブルーストーンを得る人々。
【ブレーカー】
ウォーカーマシンなどを使って、荒事を引き受ける戦闘屋。山賊行為で商人を襲うものもいれば、逆に商人に護衛や用心棒に雇われて戦うブレーカーもいる。暴力的手段でブルーストーンを得る人々。
イノセントに上納されたブルーストーンが再び市場に出回ることは無いため、市場への供給は、【ロックマン】が新たなブルーストーンを採掘するしかありません。
採掘する上で気になるのは、シビリアンの間に伝わっている「ブルーストーンは、水のある場所からは出てこない」という噂。
これは元々、イノセントが流した噂なんでしょう。
その意図は「水場に安住するな。世界に拡散せよ。もっと過酷な条件で戦い、生き残れ」と言ったところか。
またシビリアン達の経験則として「水場のある定住しやすいところのブルーストーンは、もうとっくに誰かが手をつけている」という現実も噂を強化しているのかも知れません。
かくして【ロックマン】が市場にブルーストーンを提供し、【交易商人(運び屋)】が運びながら流通させ、それを【ブレーカー】が奪ったり、守ったりしながら、最終的にイノセントが全て回収し、代わりにウォーカーマシンや兵器を市場に提供するというブルーストーン経済が成立します。
この弱肉強食ブルーストーン経済で生き残り、勝ち残るためには、
【ロックマン】には、過酷な条件で働くための生命力や採掘の技術力
【交易商人(運び屋)】には、社会性やビジネス能力、隊商を率いる統率力
【ブレーカー】には、軍事技術、ウォーカーマシンの操作能力など戦闘力
これらが高いレベルで求められます。
人々は生存競争に必要な技術や社会性を発達させながら、日々生きているわけで、まさしくイノセントの思惑どおり。
あとは社会・技術レベルが一定の水準に達するまで生存競争が続くように、ウォーカーマシンや兵器を投入しながら、戦力バランスを整えてあげればいい。
つまり、これがイノセントのブルーストーン経済によるシビリアンコントロールです。
普通はシビリアンコントロール=文民統制ですが、ここでは『ザブングル』用語としての、再生人類シビリアンをコントロールする、という意味で使っています。
ただ、シビリアンコントロールの意味が、
「国民が、選挙で選ばれた国民の代表(政治家)を通じて、軍隊を、コントロールする」
ということなら、メタ的な視点でいえば
「富野由悠季(世界の作り手)が、イノセントという概念を通じて、主人公たちのドンパチ(ロボット戦争)を、コントロールする」
とは言えるかも知れない。
この「三日限りの掟」「ブルーストーン経済」という2つのルール・システムによって、惑星ゾラは完成しました。
逆に言えば、この2つが無ければ惑星ゾラは、よくあるロボットがドンパチやっている星のひとつでしかないと私は思っています。そのため、どうしてもこの段階まで語る必要があったのです。
さて、ところで……
【惑星ゾラ開発史・余談】ソーシャルゲーム『戦闘メカ ザブングル』
ブルーストーン経済を今現在もっとも分かりやすく説明するには、ソーシャルゲーム『戦闘メカ ザブングル』にしてしまうのが良いでしょう。
プレイヤーの目的は「ブルーストーンを集め、他のプレイヤーより優位となって、生存競争を勝ち抜く」ことです。
ゲーム内で、ブルーストーンを手に入れる方法は3つあります。
(1)ブルーストーンを掘り出す(【ロックマン】的方法)
ソーシャルゲームの基本。ボタンを連打して、採掘を行います。たまにブルーストーンが手に入ります。
ブルーストーンの価値(レア度)は純度によって上下します。
(2)トレードで売買する(【交易商人(運び屋)】的方法)
他のプレイヤーと、お金やアイテムなどでブルーストーンを取引きします。
(3)他プレイヤーを襲って手に入れる(【ブレーカー】的方法)
他のプレイヤーにウォーカーマシンで攻撃をしかけて、ブルーストーンを奪い取ります。
仲間を集めて隊商を組み、襲撃に備えたり、逆に集団で攻撃をしかけることもあるかも知れません。
どれもソーシャルゲームの基本的な要素ですね。
こうして得たブルーストーンを使って、イノセント(ゲーム運営側)が持つ、より強力なウァーカーマシン、より多くの積載量のあるランドシップなどと交換し、強化を進めていきます。
原作『ザブングル』と同じく、ブルーストーンはイノセント(ゲーム運営)に差し出せば、二度と市場に回らないので、新たにコストをかけて採掘し、それをシビリアン(プレイヤー)間で取引したり、奪い合ったりするほかありません。
イノセント(ゲーム運営)は、この戦いが永遠に終わらないようにバランス調整を続けながら、戦いを煽っていくことでしょう。
これを見て分かるとおり『ザブングル』の生存競争は、ソーシャルゲームとの相性が非常にいいのです。
『ザブングル』を見たことが無い人でも、ソーシャルゲームで貴重品の取り合いをしている人は多いんじゃないでしょうか。まさしくそれこそがシビリアンライフ。
そんな生存競争サバイバルを体験している方なら、きっと『ザブングル』は分かりやすい世界のはずです。
……ゲームでのブルーストーンの価値?
もちろんそこも原作である『戦闘メカ ザブングル』に従います。
『ザブングル』作品内でのブルーストーンそのものの価値は……ないですね。無価値です。
Wikipedia:戦闘メカ ザブングルによれば、小説版には「単なる変成岩の一種にすぎず、転用できる価値の無い信用通貨のようなもので、上納されたブルーストーンはシビリアンには知らされていないがこっそり廃棄されていた」とまで書かれているそうです。
でもイノセントが、シビリアンに生存競争をさせるためのシステムですから、それでいいのです。
ブルーストーンに価値があるから争いが起こるのではなく、争いを起こすためにブルーストーンに価値が与えられたのですから。
ソーシャルゲーム版『戦闘メカ ザブングル』でも原作に準拠して、ブルーストーンはそれ自体に価値はありません。ゲームなんですから全ては単なるデジタルデータですしね。
ただブルーストーンに価値を与える絶対的存在とシステムがある以上、それを得る価値はあるわけで、終わらないサバイバルダンスもまた続いていくのです。
主人公ジロン・アモスの持論による、理由ある反抗
今回は【惑星ゾラ開発史】と題して、『戦闘メカ ザブングル』の基本構造ができるまでを追ってみました。
導入された設定はそれぞれに作用しあって世界を形作り、無駄な設定まったく無し。
「ロボットアニメの世界」としてふさわしい、すばらしい惑星になったと思います。
この惑星を舞台にして、どのようなフィルムが作られ、どのようなアニメーションになったか、というのはまた別の話です。(私は基本構造・物語のフレームが大好きな人間なので、そこは意図的に切り分けて考えるタイプです)
深く考える気も知識もないのですが、イノセントとGHQの関係というのも考えてみると面白いかも知れない。
さて、この完成した惑星ゾラを舞台に、『戦闘メカ ザブングル』第1話「命をかけて生きてます」で、主人公ジロン・アモスが登場します。
ジロンは、親の仇であるティンプ・シャローンを、三日限りの掟が過ぎても追い続けます。
人工的につくられた再生人類シビリアンの生みの親である、イノセントのルールに反抗するわけです。
コントロールされるべき子供・シビリアンの分際で、親・イノセントが決めたルールやシステムにことどとく反抗し、「人類再生計画」をイノセントが望まなかった形で実現します。
というより、そもそもイノセントのつくった枠内での「人類再生計画」の実現など、親の用意したレール通りに大人になるようなものなので、本来ならありえないのです。
ジロンは子供として正しく、親に逆らって、与えられたシステムを拒否して、そこから逸脱して生きる力があることを証明しました。
もちろん、システムをぶっ壊して終わり、めでたしめでたし、にはならないので、彼らは最終回のあともずっと走り続けなくてはならない。
でも『ザブングル』最終話ラスト、エルチを迎えにいったジロンと、それを追いかけてきた仲間たちを見た人であれば、そこに不安を抱くことはないでしょう。
本当に?と見たことがない方は思うかも知れません。
確かに、惑星ゾラの乾いた大地は、人の心を痩せさせるんでしょう。
実際、イノセントの思惑どおり、シビリアンたちはそうでした。
でも、友と呼べる仲間たちと、みんなで走れば。走る仲間が息切れしたなら、肩を貸してあげれば。
きっと、かすんだ地平の向こう側まで行ける。
そんなことを、ある晴れた日に、ひとり思いました。なぜかな?ちょっと寂しさを忘れたいのかな?
気晴らしに、ロシアンルーレットでもやってみようと思います。
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