TVアニメ『ナイツ&マジック』(2017年7~9月)を見ました。



主人公がめぐみんだった。(声:高橋李依)
第1話は、恐らく原作小説(未読)をむちゃくちゃ端折ってると思うけど、アニメだとそれぐらいでちょうどいい。これは小説が冗長というわけではなく、メディアごとの特性と、そこで求められるものの違いということだろう。
あと主人公がめぐみんだった。

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作品内容は、ロボットアニメオタクが、巨大ロボットが実在する異世界に転生して、好き邦題しながら活躍する、といったもの。

「『聖戦士ダンバイン』のショット・ウェポンが主人公」と説明している人もいましたが、『ナイツ&マジック』はすでにロボットが存在している世界であり、むしろ主人公のメタさと見目麗しさと合わせて、転生レディオス・ソープという方が実状に近いかな。(あくまでもMHマイスターとしてのソープね)

舞台となる異世界に「ロボット」というものがすでに存在しているかどうか、というのはかなり大きな違いといえます。

『ナイツ&マジック』は「ロボットのある世界に転生する」という事こそがロボットオタクの夢であるので、これで構わないというか、そうでなければならないでしょう。ロボットを生み出したことがすごい、と言われるのではなく、すでにロボットが存在する世界において「主人公が考えたロボットがすごい」と言われるべき物語なので。

『聖戦士ダンバイン』では、召喚された地上人(ちじょうびと)によってロボットの概念と技術そのものが持ち込まれ、異世界のしくみ(オーラ)や素材と組み合わさって、独自のロボット――オーラバトラーとして結実する。

身も蓋もないこといえば、ロボットアニメである『ダンバイン』という作品には当然ロボットが必要なわけで、そのためにロボット工学の権威であるショット・ウェポンが、主人公ショウ・ザマに先んじてファンタジー異世界に召喚され、オーラバトラーを開発する役割を果たしただけの話といえます。前乗りして準備してくれたわけですね。

だからこそ主人公が召喚され、物語がスタートした第1話では『ナイツ&マジック』同様、バイストン・ウェルはすでにロボットは存在している世界となっているわけです。

それにしても、いくら若きロボット工学の権威とはいえ、生体エネルギー「オーラ力(ちから)」で動くマシンというのは、地上のロボット工学の範疇を大きく越えてる気がしないでもない。天才の2文字で片付くことかもしれないが。

そう考えると、ロボットの欠片もない異世界バイストン・ウェルに呼ばれて、ゼロからロボット(オーラバトラー)を生み出したショット・ウェポンの変態ぶりはなかなか興味深い。

No.1 ショット・ウェポン


Wikipediaで「ショット・ウェポン」の人物紹介を引用してみましょうか。

アメリカ合衆国・カリフォルニア州出身の地上人。28歳。地上ではロボット工学の権威だった。バイストン・ウェル固有のオーラ力を利用して強力なオーラマシンを作り上げドレイクに協力する。詳しい理由は不明だが、一時は幼なじみのジャバと共にオーストラリアで強制労働を強いられていた。漁夫の利を狙う策士で、ゆくゆくはドレイクをも排除し自らが支配者になろうとする野心家である。
Wikipedia:『聖戦士ダンバイン』より


ショット・ウェポンはカリフォルニア出身のアメリカ人です。
その彼が、オーストラリアで奴隷みたいな強制労働に従事していたのはあれ何なんでしょうね。

shot_01.jpg

一応、本人の口からは「アメリカから逃げ出した両親に連れられてオーストラリアに行ったが、学校にも行けず、時代錯誤な労働をさせられた」と語られているので、アメリカで貧困の中、オーストラリア移民にでもなったけどさらにみじめで苦労した、みたいな感じだと思うのですが、若くしてロボット工学の権威になるような人生に、あんな無駄なことしている隙間あるのかな。
(逆にいえば、こんなことしてたのにロボット工学の権威になれているぐらいの天才)

このオーストラリアでの惨めな生活にも、そしてアメリカという国にも心底腹を立てていると語っているので、これがショットの地上での鬱屈であり、オーラマシンの開発者として地上に戻ってきたことが彼にとっての凱旋帰国ということになるのでしょう。

これらは第41話「ヨーロッパ戦線」で、ショットの過去を知る友人ジャバが登場することで、これが明らかになるわけですが、サイコパス的なモンスターの背景や動機を語ることでモンスターがただの人になってしまうように、天才ショットの動機を昔、奴隷のようなひどい目にあった過去があったから、といった前時代的なエピソードにしてしまった感はあります。

召喚される地上人はいずれも、現実世界に対する強い鬱屈を抱えており、異世界バイストン・ウェルでそれを解消しようとするので、ショットにもそうしたものがあるのは当然なんですが、例えば頭が良すぎて独自の超理論が、学会で理解されず受け入れられなかった的な天才エピソードではなく、オーストラリアの強制労働というのがどうしても前時代的な印象を受けます。

(なぜか)強制労働していた屈辱の時期があって、ミュージィと普通に相思相愛で、ドレイクを出し抜いて自らが支配者になろうという野心を持つというショット・ウェポン。
以前少し書いたことがありますが、はっきりいって、ある種まともで、普通の人間すぎるんですよね。黒幕的なことをやるには、あまりにも人間が分かりやすすぎる。

普通人ショットのパーソナリティを強化した延長線上に、アマンダラ・カマンダラやパプティマス・シロッコがいるような気がしますね。

唐突妄想劇場「オーストラリア百億の昼と千億の夜」

過酷な強制労働の1日が終わったオーストラリアの夜。
宿舎の簡素な二段ベッドに、疲労でボロボロの体を横たえるショットとジャバ。
下段ベッドに寝転ぶショットは目をまっすぐ上段ベッドに向けたまま、そこにいるはずのジャバの背中に話しかける。

ショット「まだ起きているか?」

ジャバ「……明日も早いぞ」

ショット「聞いてくれジャバ」

あきらめたように目を閉じるジャバ。

ショット「天才の私が考えるロボットをこの現場で使えば、10分の1の人間で、10倍以上の仕事ができるだろう。その理論はこうだ……(ずっと喋り続ける)」

ジャバ「(ああ、こいつ、体弱いのに炎天下で働きすぎたな……)」

ショット「……ジャバ?」

ジャバ「そうか。そいつは楽になるな。最高だ。そのロボットとやらが出来たらぜひ俺に操縦させてくれ」

ショット「もちろんだ。で、肝心なのは動力機関だが……(喋り続ける)」

ジャバ「……。(すでに寝ている)」

かくしてオーストラリアの夜は更けていく。

< つづく >


妄想はともかく。
前述のとおりロボット戦争アニメなので、ロボット作らないとどうしようもない前提はあるとはいえ、コンピューターも動力機関も、そもそもそれらを作る文明レベルも機械も道具も何にもない状態でも絶望することなく、自分の専門分野であるロボットをとにかく作ろうとしたショットはとにかくブレない。

実際、作品みると、本当にオーラマシン関係しか作ってないっぽい。工房などもオーラマシンの為に用意したものだし。
作品上の役割としてはそれで十分すぎるんだけど、とりあえずティファールみたいな湯沸かしポット作ってみるとか、そういう試行錯誤をしながら、文明レベルをひとつずつ上げていこうか的な過程が見えないので、天才としか言いようがない。

バイストン・ウェルCivilization(シヴィライゼーション)の技術ツリーの中で、「オーラマシン」に関係するものだけを最短ルートで取ったような感じ。銀行制度?知るか!みたいな。



No.2 ゼット・ライト


現在の視点だと、オーラマシンのコンピュータ・セクションの開発をやったというゼット・ライトの方が開発者としての価値が高いように見えるんじゃないだろうか?

z_light_01.jpg

ゼット・ライトはショットと同じくアメリカ人。はい引用(指を鳴らす)。

ショット・ウェポンとともにオーラマシンを開発したアメリカ国籍の地上人。オーラマシンのコンピュータ・セクションの開発は彼の手によるものだが、ショットに手柄を取られ、世渡り上手なショットが自分より厚遇されていることに不満を抱いている。自身の口先では否定していたが、ガラリアに惚れている。オーラ・ロードを通って召喚されたことから、聖戦士として登用された他の地上人達には及ばないにしても、それなりのオーラ力は持っており、地上浮上後には自らオーラマシンを駆って戦うこともあった。乗機はビランビー、バストール、ブブリィ。己と黒騎士とが同様に世渡り下手で武骨な職人気質だったことに気付き、お互いの技術屋魂と騎士道精神とを認め合うが、直後の出撃にて戦死する。
Wikipedia:『聖戦士ダンバイン』より


アメリカのどこの出身なのかは情報が無いようで、少し調べたところでは分からなかった。

詳しい所は良く分からないが、システム系の開発はすべてゼットの功績らしいし、そもそもコンピュータが無いとマシンの制御の前に開発すらおぼつかなかったのでは、と思われる。
ショットにしてみればゼットさまさまなはずだが、世渡りの上手いショットはオーラマシン開発者として厚遇されており、ゼットは不満を抱いている。

オーラバトラー開発の前段階としてゼットのコンピュータが存在するのだとすれば、つまり先ほどのバイストン・ウェルCivilizationで言えば、オーラバトラーの前提テクノロジーとしてコンピュータ(残り9ターン)が必要という状況。
どうやって、あの世界の、あの状況でコンピュータが開発できたんだ。天才だなゼット・ライト。

実際のところ、戦争ロボットアニメとしてはロボット開発が重要なのですが、テクノロジーとしてはオーラの世界で使えるコンピュータ開発の方が、汎用性と世界全体に与える影響は大きいのではないかと現在の視点からも思うので、ゆえにゼット・ライト型コンピュータ物語の妄想を語ろう。

唐突妄想劇場「プロジェクトZ オーラネットワークの夢」

そもそもゼットはコンピュータをハード、ソフト両面でゼロから作れる上に、オーラエネルギーで動くとか、オーラを制御するとか、バイストン・ウェルのよく分からない法則にも対応した天才という事になるので、天才ついでにネットワークについても、ゼロから始める異世界開発してもらうことにしよう。

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その結果『ダンバイン』当時(83~84年)の電話回線を用いたネットワークより格段に早い、オーラテクノロジーを応用した(適当)オーラネットワークの開発に成功。
中世レベルのバイストン・ウェルになぜかWAW(World Aura Web=ワールドオーラウェブ)が導入される事となった。異世界ブロードバンド時代突入である。

「魔法の道具などで事実上のネット通信」ではなく、そのまま現代テクノロジーとしてのコンピューターやネットワークを開発して「中世ファンタジーの世界でインターネットが存在する」という作品は、小説界のアカシックレコードであるWeb小説の世界ではすでにあると思うので、識者の皆さんはゼット・ライトに教えて上げてほしい。

World Aura Web導入後の世界では、SNSが発展するのも時間の問題だと思うので、どこぞの領主が過激な発言をして一触即発になったり、ルーザがビショットのアカウントをフォローしてこっそりDMを送ったりしていることだろう。
あとは多分、アイドル的人気のあるセレブなどはネットでは苦労してそう。

シーラ・ラパーナ「シーラ女王を、性的な目で、見ないで、下さ、い..........と」

< つづく >


妄想はともかく。
ドレイク・ルフトが地上人召喚ガチャでSSR(最上レア)を同時に2枚ひいた豪運の持ち主であることには間違いない。
ショット・ウェポン言うまでもないが、ゼット・ライトも間違いなくSSR人材である。
(聖戦士ガチャの運はそれほどでもない)

汎用的で広く役に立つコンピュータを開発できるゼット・ライトは、野望にあふれるショットがいなければ、ここまで一方的な兵器開発だけでなく、もう少し異世界の生活に直結するような面白そうなことをやっていた可能性はあると思う。

もちろん召喚される地上人は、何らかの形で戦いを受け入れることができるような人材なので、ゼットも例外ではなく、現実世界で何らかのフラストレーションを抱えていたのだろうし、平和的なインテリジェンスはあまり望めないだろうとは思いますが。

ただゼット本人も語っていたとおり、政治家であるショットと違って、ゼットは職人気質の技術屋にすぎないのであって、腕をふるう方向を上手くコントロールしてやれば、多分、妄想したようなこともできるかな、とは思う。

実際には野望をもつドレイクに加えて、野心家ショットがいたことで、単に兵器開発に技術を利用される関係だったのが運命というか、少し可哀想というか。
これもバイストン・ウェルの意思なんでしょうか。

ちなみに地上人はオーラマシン関係の開発しかしてないんだろうか?という疑問については、Twitterにてこんな情報を頂きました。



なるほど。水力発電ですか。
小説『リーンの翼』においては、地上の技術は、軍事のみに突出せず、バランス良く導入されているようですね。
さすが地上人が国を造って何十年の世界。 多分、営業や広報の地上人も召喚されてる。



No.3&No.4 トッド・ギネス&アレン・ブレディ


今回の記事において、この2人は主眼ではないが、地上人 from USA として少し触っておく。

まずは空軍の先輩であったアレン・ブレディ

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これまたルーツやアメリカの詳しい出身地についての情報はなし。

ジェリル・クチビやフェイ・チェンカと共に召喚された地上人。トッドの空軍時代の先輩であり、彼の召喚は、そのことを知り功を焦ったトッドがショウとの戦いに敗れ消息不明となる間接的な原因ともなる。軍では優秀なパイロットだったようで、オーラバトラーの操縦にも自信を見せていた。
Wikipedia:『聖戦士ダンバイン』より


そしてレッドソックスのお膝元ボストン出身で「東部の落ちこぼれ」を自認するトッド・ギネス

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アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンの出身で、アメリカ空軍のパイロット候補生であった。23歳。ショウや後述するトカマク・ロブスキーと同時期にシルキー・マウによってバイストン・ウェルに召喚された地上人。ドレイクの聖戦士としてネイビーブルーのダンバインを与えられた。そのままドレイクに掌握された「アの国」陣営の一員として、ショウ、マーベルらギブン家陣営と幾度となく戦闘を繰り広げる。
Wikipedia:『聖戦士ダンバイン』より


この2人はアメリカ人であり、空軍のパイロット出身。当然「聖戦士」として、オーラバトラーに搭乗して戦う役目を負う。

ドレイク・ルフトの野望のもとに、ショット、ゼットというアメリカ人天才技術者が新兵器を開発し軍拡を進め、トッド、アレンといったアメリカ人が実働部隊として、周辺諸国を、そして地上をも侵攻していく、という構図がひとつあります。

例えば新大陸では、異世界の戦争技術の導入に近いことが実際の歴史上であったわけです。
ショットもトッドもアレンも「異世界の兵器」で土地を奪い建国したアメリカ合衆国の人間です。

他の聖戦士は、トカマク(ソビエト)は早々に戦死。ショウ・ザマ(日本)は早々に離反。
あとは、フェイ・チェンカ(中国)と、ジェリル・クチビ(アイルランド)。この2人は出身国よりは個人的背景が核のキャラクターだと思いますが、現在から見るとむしろ出身国が興味深いかも知れない。

今、聖戦士3連ガチャをひいたとした時、3人のキャラクターの出身国をそれぞれにどこに設定するのが面白いだろうか。

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No.5 マーベル・フローズン


ここまで異世界バイストン・ウェルに召喚された4人のアメリカ人を紹介してきました。
では、残るひとりは?

そう。テキサス州はダラスの芋ねえちゃんこと、セクシー眉毛のマーベル・フローズン

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アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身の大学生。18歳。実家は牧場を経営。正義感・使命感の強い女性で座禅を組む程度だが禅を嗜む。ショウがドレイク・ルフトの下から離れるきっかけを作り、戦闘でもパートナーとなる。早いうちからナックル・ビーにより聖戦士としてバイストン・ウェルへ召喚されており、ショウ達が召喚された頃には既にギブン家の一員となっている。
Wikipedia:『聖戦士ダンバイン』より


召喚される地上人の鬱屈と、異世界での自己実現については、昔ブログに書きましたが、その地上人の中でもひときわ歪みが少ないと思われるのが、このマーベル・フローズン。

アニメ本編を見る限り、両親との関係、家庭環境も特に歪みは無さそうだし、何よりマーベル自身、ショウと違って対ドレイクのスタンスを自分で決断できるような女性でもある。
もちろんマーベルは主人公の導き手としての役割が大きいので、構造的に歪みを内包しづらいキャラクターなのだが。

しかし現実世界への何らかの鬱屈が、召喚される必要条件のひとつであるとするなら、マーベルも例外ではなくその条件を満たしているのかも知れない。もしそうならマーベルが持つ現実への鬱屈は何か?

これについて以前、記事を書いたのだが、アニメ本編を見る限り、確たる証拠といえるものはなく邪推の域になる、と結論づけた。

今回は妄想劇場を開演している記事という事もあり、あえてその個人的な邪推を話そうと思う。
前述したように明確な根拠はなにもなく、作品を勝手に膨らませて楽しむ与太話に過ぎないが、たまにはそういうのもいいだろう。

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なぜマーベルだけが、ドレイクに手を貸さないアメリカ人なのか

5人の召喚されたアメリカ人の中で、なぜマーベルだけが反ドレイクなのか(そういうキャラクターとして成立するのか)という事を考えたとき、個人的に連想するのは、ヒッピームーブメントとの親和性だったりする。

「正義無きベトナム戦争」への反対運動を発端とし、愛と平和を訴え、徴兵制度や派兵に反発した若者達がヒッピーの中心である。戦争に反対し、徴兵を拒否し、自然と平和と歌を愛し人間として自由に生きるというスタイルで、戦時下にあった全米で一大ムーブメントが起こった。初期は薬物による高揚や覚醒や悟りから出発し、各地にコミューンと呼ばれるヒッピー共同体が発生する。若者を中心に爆発的な人気を誇ったロックバンド「ビートルズ」によるインド巡礼やマリファナやLSDを使用した精神解放等により全米・そして世界へとそのムーブメントは広まっていくことになる。
Wikipedia:『ヒッピー』より


私は世代的にもヒッピー文化は身近ではなく、詳しく学んだわけでもなく、一部の表面的な知識しか持ち合わせていない。
が、まさしく、私のようなレベルの人間がイメージする、「反戦運動」「ラブ&ピース」「東洋思想」「ニューエイジ」あたりのキーワードで示されるヒッピームーブメント。

これはマーベルが「禅」を嗜んでいるから、というだけでもなく、なぜ彼女が明確な反ドレイクのスタンスを取れたのか、という事に対するアンサーとして、あるいは文化的背景としての邪推になるだろう。

もちろんその理由として、そもそもナックル・ビーに召喚され、ドレイクに聖戦士として召喚されたわけではないことが最初に挙げられると思う。ドレイクに迎えられたわけでなく、先に反ドレイクのニー達に会っているなら……というのは流れとしては自然だが、このことはイコール反ドレイクの立場を意味するわけではない。

ドレイクが第一話で地上人3連ガチャを引いたように、なぜショットとゼットと共にドレイクに召喚される立場ではなく、ナックル・ビーが禁忌を破る形でマーベルが召喚されたのか、という理由は本編では語られないし、私が知る限りでは周辺情報としても語られていないと思う。

想像するに、マーベルをドレイクに召喚させると、のちに召喚される主人公ショウ・ザマがあまりにマーベルをトレースした行動を取ることになってしまうので、地上人の出どころのバリエーションの為にも分けたのではないか、という気がする。

ナックル・ビーがなぜオーラロードを開いたのかについても、特に理由は語られないが、キャラクターの配置や主人公の独自性の為であるなら、動機は持ち前の茶目っ気でも何でもいいだろう。
ただ、反ドレイクの聖戦士として戦い、ショウ・ザマを離反させたマーベルがいなければ、バイストン・ウェルはどうなっていたか分からないので、この召喚は結果的に世界を救う超ファインプレーだった。

またこれを、ドレイクの野望の元に集まる地上人とは違う性質の人間を呼び込みバランスを取った、バイストン・ウェルの意思であると考えれば、ナックル・ビーの罪の軽減は妥当な判決だといえるだろう。

話が少し脱線してしまった(いつものこと)ので戻す。
マーベルが反ドレイクのキャラクターとして立てた理由を、精神的には単に「正義感が強い女性」で済ませても良い(実際に本編にそれ以上の情報はない)。
問題は、何も分からない、誰を信じていいいのか分からない異世界で、正義感の強い彼女が何を信じてスタンスを明確化したのか、その背景にあるものは何か、ということだ。

例えば日本人の少年ショウが、なぜドレイクの庇護下に入って何も疑問を感じなかったのか、安心して眠ってしまったのか、という事実は、マーベルと対比できるのかも知れない。
ショウと同じ日本人である我々が安心して眠ってしまう背景にあるものは何か。

はっきりいえばマーベルがヒッピーかどうか、というのは本質ではない。
カリフォルニア生まれはショット・ウェポンの方だし、時代的にもマーベルの人生とヒッピームーブメントがシンクロしていたわけでもないし、マーベル自身、聖戦士として戦場で戦っているわけだしね。

ただ、強力な兵器を開発し軍拡を続け周辺に圧力をかけ、そして飲み込んでいこうというドレイクに対して、あの時点で明確に反対を唱えられるアメリカ人はどういうタイプの人だろうか、という話なので、別に本人がヒッピーである必要はない。ないが、アメリカ人としての文化的背景や文脈として考えてみるのは面白いのでは、と思っています。

他に召喚されたアメリカ人聖戦士であるトッドとアレンは、米軍所属であり、ドレイク側で戦うことに疑問を持たなかった。
日本人であるショウも、マーベルに言われるまでそうだった。
(ソビエト人のトカマクはそういう以前の段階で死んだ)

「正しいキャラクター」ではなく、ひとつの思想的スタンス

マーベルは他の分かりやすい地上人と比べて謎が多い。
ショウの導き手として、彼に自分の立場への疑念を抱かせることで半分以上は役割が終わっているようにも見える。

彼女はショウと比べて、一貫してスタンスが明確であるが、反ドレイクという事を考えたときに、なぜアメリカ人である必要があるのだろうか、というのはポイントになると思う。

バイストンウェルが現実世界と全くの別の世界ではなく、人々の精神がテキストの戦争を演じてさせているのだとするなら、日本人に考え無しにドレイクに与する事の愚かさを指摘するのが、例えばソビエト人であるよりはアメリカ人である方がいいのではないか。その時に、同じアメリカ人がドレイクに与していればなおいい。

ヘイ、ジャップ。ドレイクの所で共に戦おうぜ、というアメリカ人がいて、そのもう一方に、善悪の見境もなしにドレイクに手を貸す馬鹿な男、というアメリカ人がいる。

日本人はそこで自分の立ち位置を考える。ショウは反ドレイクを決断したが、選択の結果が問題ではなく、日本人が立ち止まってどうすべきか考えてみる、という事こそに本質があるはずだ。
そういうバランス感覚は絶対にあると思う。

その上でマーベルをヒッピームーブメントの文脈上のキャラクターと邪推するのは、マーベルが物語中で絶対正義であり、必ず正しい物の見方をしているというわけではなく、あくまでも彼女の思想的なスタンスに過ぎない、という所に置いておくべきではないか、と私が感じるからでもある。それもまたバランス感覚のひとつとして。

空っぽな日本人ショウだからこその公器としての聖戦士

マーベルは、ショウの立ち位置を変化させたら、究極的には(役割上は)いつ死んでもいいキャラクターといえないことも無い。
ただゼラーナ側に他に地上人、それも女性の聖戦士がいないこともあり、最終回まで生き延びたけれど。

ただその最終回で、マーベルは同郷であり元凶のショットを討つものの、ショウはマーベルがこの時に受けたのが致命傷であると、今生の別れであると気付いてくれない。

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お互いに手を伸ばして求め合って死んでいくショット&ミュージィとの対比として、ショウ&マーベルの別れがある。
戦いの元凶であるショットにハイパー化せずに勝ったのはショウ&マーベルだが、ショウはマーベルに気づかず、彼女はダンバインと共に一人で海に散っていく。

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黒騎士 「確実だな……ダンバイン!」


主役ロボットとしてのダンバインの死、そしてそれに搭乗しているマーベルの死を見届けたのは、主人公ショウではなくダンバインにこだわり続けた黒騎士ただ一人。

第一話でマーベルに「善悪の見境もなしにドレイクに手を貸す馬鹿な男」と言われて、対ドレイクに回り、最終話で「貴方は聖戦士でしょ?まずドレイクを落としなさい!」と言われて、今生の別れと気づかずに素直に戦線に戻る。

マーベルの言葉は、最後まで導き手として主人公ショウに対して機能しているが、皮肉なことにそれがゆえに、人間として、ひとりの女性としてのマーベルの声はショウには届かない。

これが主人公ショウ・ザマなのである。

でもこれについては、80年代、冷戦下の日本人の少年が、異世界へ聖戦士として召喚されたケースとしてはリアリティあると思う。
戦争についての思想的な背景や特別なイデオロギーが何もない。
考えたこともないし、疑問に思ったこともない。

ただ、何もないのは必ずしも悪いことではなく、皆の願いを叶える器としての聖戦士にはその方が向いているのかも知れない。

この「皆の願いを叶える器」としての主人公と、最終回に主人公がなすべき事を示す「導き手」の関係は、のちの『機動戦士Zガンダム』でのカミーユ・ビダンとエマ・シーンを連想させる。

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それにしても、最近の異世界転移、異世界転生ものの主人公は、ショウ・ザマと比べれば本当に意識が高いと思う。
異世界でやりたい事も、やるべき事も持っている(または自分で見つけている)。

でも私はこのダメな主人公ショウ・ザマが好きなのです。
『ダンバイン』でいちばん好きな女性キャラはマーベルなので、最終話のあのシーン見るたび、わー!となりますが。

おまけ ビヨン・ザ・シンゴ


15年程見てなかった『ダンバイン』第45話「ビヨン・ザ・トッド」でのトッド・ギネスの死に際を思い出したら、「いい夢見させてもらったよ……あばよ!」と、ライネックのコクピットの中で柳沢慎吾がウインクしながら親指立てており、以後そのイメージが消えない。
もう柳沢ウィルスによる電脳ハックに近い。トッドの向こうで慎吾がチョメチョメ。

私以外にも、柳沢ウィルスによる感染者が増えることを願い、Google:「柳沢慎吾」のイメージ検索結果をご覧ください。
君はハイパー・シンゴの力に抗えるか。

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多分、早口で『ひとりダンバイン』やってくれる(BGM付き)。

黒騎士のくぐもったエフェクト声をやってくれそう。あと、リムルがルーザに返り討ちにあって、眉間撃たれて人形のように倒れるシーンを迫真の演技でやってくれることでしょう。(慎吾の完璧なリムル死に顔コピーをイメージ完了)

え? 柳沢ウィルスに感染した? どうしてくれるって? ……あばよ!(ウインク)







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なぜショウ・ザマはバイストン・ウェルで眠ってしまったのか <『聖戦士ダンバイン』に見る物語の始め方>

召喚された夜、ドレイクの城でぐっすり眠ってしまった主人公ショウ・ザマのおはなし。

『聖戦士ダンバイン』は、この記事を書いた2017年11月現在、Amazonプライムビデオにて絶賛配信中。プライム会員は召喚され放題、浄化され放題となっております。
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